小児の抜歯
虫歯がすすんだらどうなる?
マコトくん、8歳 左下の歯に痛みを覚え、来院。お口を見てみたところ虫歯だらけでした。
どうしてこんな事になったのか、どういった処置になるのか、まずは最初に来た時の様子から見てましょう
お母さん、マコトくんは歯医者には慣れていますか?
じゃあ、マコトくん椅子が倒れるからお口の中見せてね
<診査中>
そこから痛みが出ているんでしょうしかもかなりすすんでいます
(レントゲン撮影)
では、お母さん一緒に見てもらいましょうか
レントゲンは硬いものほど白く写る性質があるので、顎の骨や歯は白く写ります。
歯の中にH型をした黒い空洞は歯の神経の部屋になります。
神経は痛みやしみるといった虫歯になっている事を知らせてくれる大事な役割があります奥から2番目の歯が隣の歯と違うのが分かりますか?
これは虫歯がすすんでしまっている証拠です。
それが神経の部屋までつながっているので、虫歯の菌が神経まで侵してしまい、痛みがでています。
C0…歯の表面が白く濁っている(白濁)状態で、穴は開いていない
C1…虫歯が歯の表面のエナメル質に達している状態で、小さな穴があいている
C2…虫歯がエナメル質から中の象牙質にまで達している状態。冷たいものがしみる症状がある。
C3…虫歯が象牙質を超えて歯の神経にまで及んでいる状態。何もしなくてもズキズキと痛みがある。
C4…歯がほとんどのこっていない状態。
このうち、神経を抜く段階の虫歯はC3の状態で、神経にまで菌が進行している状態です。
C2の段階でも治療を行って、神経近くまで歯を削る必要があり、治療後に痛みが出てしまった場合は神経を抜く処置を行うこともあります。
マコトくんの場合は痛みの症状があり、レントゲンの状態から判断してC3になります。
治療途中は歯の表面に穴が開いたままの状態のため、仮封として粘土のようなものを詰めておきます。
この材料はとても取れやすいため、粘着性のある食事は避けて摂る必要があります。
感染がおこさないように治療を行いたいので、大体1週間に1度通院が必要になってきます。
痛みは今日の処置で落ち着くと思いますけどね
確かに抜歯することもありますが、それからの方が大変ですよ。
そのスペースを埋めようと、両隣の歯、噛む相手の歯が寄ってくるという性質があります。
そのスペースが無くなると大人の歯がどうなると思いますか?
噛み合わせが悪くなると食べづらくなり、歯が重なる事(叢生)で磨きづらくなると、虫歯になりやすくなります。
でも抜いてしまったらそのままなのでしょうか?
下画像のバンドループという金属の装置(補隙装置)をつけることでスペースを確保します。
永久歯が生えてきたら、その装置を取り外します
<画像>
小さい子は銀歯など見たことありませんから、興味本位でからかわれたりすると、マコトくんのストレスになるかと思います
- 虫歯が大きく、痛みが出ていることから神経を抜く処置が必要である
- 乳歯だから単純に抜けばいいというわけではない
- 抜歯する場合は、永久歯があるかによって方針が変わる
マコトは末っ子なので、ほったらかしにしていることが多くて・・・
僕からも歯磨きの指導はしますが、このままだと永久歯も虫歯になり、大変になりますよ?
お母さんは神経の治療をした事がありますか?
分かりました、ではステップごとに説明していきますね
①麻酔をかける
通常の虫歯の治療の時に使用するものと同じ麻酔です。歯の痛みがある状態ですと麻酔がなかなか効かないことがあります。
②歯を削る
歯を削り、歯の神経をみつけます
③歯の神経を抜く
ギザギザのついた小さな針金のような器具を使用して神経を抜く処置を行います。
④根管(歯の神経の入っていた場所)の大きさを拡大していく
根管長測定器という機械を使用して根の先端までの位置を把握します。
⑤根管を洗浄する
洗浄液を使用して根管内の殺菌・消毒を行います。
⑥最後に薬剤を詰める
根管の中にお薬を詰めて神経を抜く治療は終わりになります。
大人の方の治療と違うのは⑥で使うお薬は根の吸収を考慮して、吸収性のものにするくらいですね
では、お母さん。処置していきますね
<処置終了後>
お母さん、今日は痛み止めを出しておきますから
また一週間後に来てください
<処置2回目>
今日は他の虫歯もやっていこう早くしないと他の歯もそうなっちゃうからね
<処置2回目終了後>
簡単に言うと、今回の虫歯の状態はC2といって虫歯がエナメル質から中の象牙質にまで到達している状態です。冷たいものがしみるなどの症状があります。
この状態はレジンという樹脂を詰めるといった処置になりますが、C2の段階でも治療を行っていくと、神経近くまで歯を削る事があるため、治療後に痛みが出てしまった場合は神経を抜く処置を行うこともあります。
ただ歯の神経をぬいてしまうと歯が脆くなってしまうため、歯の寿命が短くなってしまいますので、なるべく残したいのです。
では神経を抜くメリット・デメリットについて説明しますね
神経を抜くメリットは一つです
・強い痛みを解消できる
神経を除去するわけですから、痛みを感じることはありません。
次に歯の神経を抜くデメリットですが、多くあります
・歯の異変を感じられなくなる
歯の神経が通っていることで、歯の異変を感じ取ることができます。しかし、神経を抜くことは、こうしたサインがなくなります。なので虫歯になっても痛みを全く感じなくなるため、虫歯に気づかなくなることがあります。その場合は再度神経の治療が必要になります
・虫歯から守る力が失われる
神経は外からの刺激に対して、歯を固くしたり、虫歯の急激な進行を食い止めたりといった役割も担っています。ですから神経を抜いた歯は、虫歯になりやすいのです。
・歯が脆く割れやすくなる
神経を抜いた歯は、枯れ木のような状態です
歯の神経には歯に栄養を送るポンプの役割を果たしており、それによって歯を健全に保っています。供給が絶たれると、歯がもろくなり割れやすくなります。
・歯の色が黒ずんでくる
神経を失い、血液が循環しなくなると、歯の内部組織の新陳代謝がなくなるので、歯の色が徐々に黒ずんできます。
<処置数回目>
この後に治療を行い、神経の治療は終わりました。虫歯を放っておくと、こんな事になってしまうのです。
もちろん治療が終わっても日々のケアは続けなければなりません。しっかりとケアを行い、虫歯のない歯にしていきましょう