小児の抜歯

虫歯がすすんだらどうなる?

マコトくん、8歳 左下の歯に痛みを覚え、来院。お口を見てみたところ虫歯だらけでした。
どうしてこんな事になったのか、どういった処置になるのか、まずは最初に来た時の様子から見てましょう

 

ドクター
マコトくん、こんにちは
マコト
こんにちは
先生、よろしくお願いします
ドクター
今日はどうされましたか?
息子のマコトが昨日から歯が痛いという事で来ました
ドクター
マコトくん、どこの歯が痛いの?
マコト
左下の歯が痛い・・・
ドクター
なるほど、じゃあお口の中を見せてもらうよ

お母さん、マコトくんは歯医者には慣れていますか?

年に一回は検診とフッ素で行っていたので、大丈夫かと思います
ドクター
わかりました

じゃあ、マコトくん椅子が倒れるからお口の中見せてね

マコト
うん

 

 

<診査中>

ドクター
マコトくん、お疲れ様。椅子が動くから気をつけてね
マコト
うん
ドクター
お母さん、虫歯ができていますね。

そこから痛みが出ているんでしょうしかもかなりすすんでいます

そうですか・・・マコト、今日は虫歯をとってもらうから頑張りなさいね
マコト
お母さん、今日で終わる?
終わりますよね、先生?
ドクター
うーん、難しいと思います。まずは虫歯の深さを知るためにレントゲンを撮ってみましょう
えっ、終わらないんですか?
ドクター
虫歯がすすんでいる状態とたまに痛みがあるとの事なので、神経を抜く処置が必要になるかもしれません
神経を抜く・・・?それって何回も通うことになるんですよね?
ドクター
そうです、そうなるとマコトくんにも負担になるので、診断のためにもレントゲン撮影をさせて下さい
分かりました
マコト
レントゲン?痛くない?
ドクター
痛くないよ、お口の中の写真を撮るだけだからここじゃ撮れないから、レントゲン室に行くから靴を履いてね
マコト
うん

 

(レントゲン撮影)

ドクター
マコトくん、お疲れ様。マコトくん頑張ったから綺麗に写真撮れたよ。

では、お母さん一緒に見てもらいましょうか

はい
ドクター
この写真は左下の奥歯を写したものです。

レントゲンは硬いものほど白く写る性質があるので、顎の骨や歯は白く写ります。

歯の中にH型をした黒い空洞は歯の神経の部屋になります。

神経は痛みやしみるといった虫歯になっている事を知らせてくれる大事な役割があります奥から2番目の歯が隣の歯と違うのが分かりますか?

そうですね、上の部分が大きく欠けているように見えます
ドクター
そうですね、本来であれば隣の歯のような形をしているはずなのですが、虫歯がすすんでしまった事で、形が異なってしまっています。

これは虫歯がすすんでしまっている証拠です。

それが神経の部屋までつながっているので、虫歯の菌が神経まで侵してしまい、痛みがでています。

虫歯をとれば治りますか?
ドクター
残念ながら虫歯の治療だけでは治りません。どの程度の虫歯か説明していきますね。まず一般的に虫歯は5段階に分けることができます。

  • image1
    C0…歯の表面が白く濁っている(白濁)状態で、穴は開いていない
  • image2
    C1…虫歯が歯の表面のエナメル質に達している状態で、小さな穴があいている
  • image3
    C2…虫歯がエナメル質から中の象牙質にまで達している状態。冷たいものがしみる症状がある。
  • image4
    C3…虫歯が象牙質を超えて歯の神経にまで及んでいる状態。何もしなくてもズキズキと痛みがある。
  • image5
    C4…歯がほとんどのこっていない状態。
    このうち、神経を抜く段階の虫歯はC3の状態で、神経にまで菌が進行している状態です。
    C2の段階でも治療を行って、神経近くまで歯を削る必要があり、治療後に痛みが出てしまった場合は神経を抜く処置を行うこともあります。
    マコトくんの場合は痛みの症状があり、レントゲンの状態から判断してC3になります。

なるほど・・・今日だけで終わらないんですね・・・
ドクター
そうですね、歯の神経を抜く処置は大体4、5回程度回数を重ねる必要があります。

治療途中は歯の表面に穴が開いたままの状態のため、仮封として粘土のようなものを詰めておきます。

この材料はとても取れやすいため、粘着性のある食事は避けて摂る必要があります。

感染がおこさないように治療を行いたいので、大体1週間に1度通院が必要になってきます。

痛みは今日の処置で落ち着くと思いますけどね

そんなに通わないといけないのですか…でも乳歯なので抜いたら一回で終わりますよね?
ドクター
お母さん、抜いたらいいというのはあまり考えとしてはよくないです。

確かに抜歯することもありますが、それからの方が大変ですよ。

えっ、何が大変なんですか?
ドクター
まず歯が抜けてしまうとスペースができますよね?

そのスペースを埋めようと、両隣の歯、噛む相手の歯が寄ってくるという性質があります。

そのスペースが無くなると大人の歯がどうなると思いますか?

生えづらくなりますね
ドクター
そうです、歯が正しく並ばなくなります。それだけではありません。

噛み合わせが悪くなると食べづらくなり、歯が重なる事(叢生)で磨きづらくなると、虫歯になりやすくなります。

なるほど、乳歯は残した方がいいんですね。

でも抜いてしまったらそのままなのでしょうか?

ドクター
いいえ、そのままにはしません。

下画像のバンドループという金属の装置(補隙装置)をつけることでスペースを確保します。

永久歯が生えてきたら、その装置を取り外します

 

<画像>

image6

 

生えるまでずっとそのままですか?取り外しはできないのですか?
ドクター
できません。マコトくんの場合、もし抜歯を選択するのであれば、1~2年はつけるようになるでしょうね
それは長いですね
ドクター
心配なのはそれだけではありません。

小さい子は銀歯など見たことありませんから、興味本位でからかわれたりすると、マコトくんのストレスになるかと思います

うーん・・・ひどい状態であれば、抜歯すればいいと思っていました。
ドクター
そうですね、また最近の子は下に大人の歯がないことがありますから、抜くのであればより慎重にならなければなりません。
大人の歯がないことなんてあるんですか?
ドクター
ありますよ、先天欠損といいます。抜いた場合は大人と同じ処置になります。
処置というのは・・・?
ドクター
ブリッジ・入れ歯ですね。矯正も検討になるかと思いますが…いずれにしても抜くにも下に歯があるかないかが重要なポイントになります。
マコトには乳歯の下に大人の歯はありますか?
ドクター
それについてはご安心ください、ありますよ
良かった

ドクター
それでは、マコトくんの今の状態・処置方針についてまとめますね。

  • 虫歯が大きく、痛みが出ていることから神経を抜く処置が必要である
  • 乳歯だから単純に抜けばいいというわけではない
  • 抜歯する場合は、永久歯があるかによって方針が変わる
よく分かりました。でもここまで考えないといけないのですね。私もしっかりとお口の管理に努めたいと思います
ドクター
お母さん、仕上げ磨きはされていますか?
いえ、まったく・・・

マコトは末っ子なので、ほったらかしにしていることが多くて・・・

ドクター
今からでも遅くありません。仕上げ磨きをしてください。

僕からも歯磨きの指導はしますが、このままだと永久歯も虫歯になり、大変になりますよ?

分かりました
ドクター
さて、お母さんと話す時間が長くなってしまったねマコトくん、じゃあ治療をしていこう
マコト
うん、でも何をするの?
ドクター
そうだね、どういった事をするか話そう

お母さんは神経の治療をした事がありますか?

ありますが、どういった事なのかよく分かっていません
ドクター

分かりました、ではステップごとに説明していきますね
①麻酔をかける
通常の虫歯の治療の時に使用するものと同じ麻酔です。歯の痛みがある状態ですと麻酔がなかなか効かないことがあります。
②歯を削る
歯を削り、歯の神経をみつけます
③歯の神経を抜く
ギザギザのついた小さな針金のような器具を使用して神経を抜く処置を行います。
④根管(歯の神経の入っていた場所)の大きさを拡大していく
根管長測定器という機械を使用して根の先端までの位置を把握します。
⑤根管を洗浄する
洗浄液を使用して根管内の殺菌・消毒を行います。
⑥最後に薬剤を詰める
根管の中にお薬を詰めて神経を抜く治療は終わりになります。

大人の方の治療と違うのは⑥で使うお薬は根の吸収を考慮して、吸収性のものにするくらいですね

大人の歯が生えるのを邪魔しないためですか?
ドクター
そうですね
マコト
えっ、麻酔するの?痛い?
ドクター
今日我慢すれば歯が痛いのはなくなるよ、ずっと歯が痛いのとどっちがいい?
マコト
・・・我慢する
よく言ったわね、マコト
ドクター
偉いな、マコトくんは

では、お母さん。処置していきますね

よろしくお願いします

 

<処置終了後>

ドクター
今日は終わりだよ、お疲れ様
マコト
麻酔ってすごいね。全然痛くなかった
ドクター
よく頑張ったよ、マコトくん
お母さん、今日は痛み止めを出しておきますから
また一週間後に来てください
痛みはすぐ治まらないんですか?
ドクター
そうですね、やはり日に日に落ち着くとは思いますが、それまでは痛みがある場合は飲んでください
わかりました
ドクター
痛みがなくなっても、治療は終わりではないので、しっかりと通ってくださいね。まだ他も虫歯はありますから頑張ろうね、マコトくん
マコト
うん

 

<処置2回目>

ドクター
マコトくん、一週間経ったけど痛みは大丈夫?
マコト
うん、大丈夫
治療した次の日までは一応、痛み止めを飲みましたが、今は大丈夫みたいです
ドクター
よかった、今日は前回説明した③~⑤を行うよ
マコト
あと何回で終わる?
ドクター
その歯だけならあと2~3回かな。

今日は他の虫歯もやっていこう早くしないと他の歯もそうなっちゃうからね

マコト
はーい

 

<処置2回目終了後>

ドクター
お母さん、今日治療した歯はなぜ神経を残したのか、根管治療している歯との違いについて説明しますね
お願いします
ドクター

簡単に言うと、今回の虫歯の状態はC2といって虫歯がエナメル質から中の象牙質にまで到達している状態です。冷たいものがしみるなどの症状があります。
この状態はレジンという樹脂を詰めるといった処置になりますが、C2の段階でも治療を行っていくと、神経近くまで歯を削る事があるため、治療後に痛みが出てしまった場合は神経を抜く処置を行うこともあります。
ただ歯の神経をぬいてしまうと歯が脆くなってしまうため、歯の寿命が短くなってしまいますので、なるべく残したいのです。

では神経を抜くメリット・デメリットについて説明しますね

神経を抜くメリットは一つです
・強い痛みを解消できる
神経を除去するわけですから、痛みを感じることはありません。

次に歯の神経を抜くデメリットですが、多くあります

・歯の異変を感じられなくなる
歯の神経が通っていることで、歯の異変を感じ取ることができます。しかし、神経を抜くことは、こうしたサインがなくなります。なので虫歯になっても痛みを全く感じなくなるため、虫歯に気づかなくなることがあります。その場合は再度神経の治療が必要になります

・虫歯から守る力が失われる
神経は外からの刺激に対して、歯を固くしたり、虫歯の急激な進行を食い止めたりといった役割も担っています。ですから神経を抜いた歯は、虫歯になりやすいのです。

・歯が脆く割れやすくなる
神経を抜いた歯は、枯れ木のような状態です
歯の神経には歯に栄養を送るポンプの役割を果たしており、それによって歯を健全に保っています。供給が絶たれると、歯がもろくなり割れやすくなります。

・歯の色が黒ずんでくる
神経を失い、血液が循環しなくなると、歯の内部組織の新陳代謝がなくなるので、歯の色が徐々に黒ずんできます。

なるほど、神経の治療が終わってもそういった事があるのですね
ドクター
そうです、治療が終わってからはまた虫歯にならないためのケアが必要なのです
分かりました、もう虫歯にならないよう歯磨きを徹底します
ドクター
そうですね、お願いします治療は状態を診て、早ければ次回で終わりになるかと思います
マコト
やった、終わり?
ドクター
神経の治療の歯はね、虫歯はまだあるから頑張っていこう
マコト
はーい

 

<処置数回目>

ドクター
歯の中が綺麗になったので、これからお薬を詰めて終わりになります
お薬はどういったものですか?
ドクター
乳歯は根が吸収されるので、それに合わせた吸収性のお薬で歯の中がまた感染しないようにします
詰めるという事ですが、痛みは・・・
ドクター
ないですよ、お薬を詰めたら虫歯の時と同様に、樹脂製の詰め物で蓋をします
蓋をしてそのままですか?
ドクター
場合によっては被せ物を作ったりしますが、歯質が十分に残っているので、このままでいきたいと考えています。
治療後に気をつけることはありますか?
ドクター
特にはありません。強いて言えば、神経を抜いているため、経過を診たいので定期的に来てください
定期的にですか?
ドクター
虫歯になっても抵抗力がない、再感染した場合は痛みの信号がないために気づきにくい、神経がないために割れやすい、そういった事からです
なるほど
ドクター
また根が吸収されにくい事があるので、永久歯の萌出障害になるような事がありますので、その際は抜いたほうがいいこともあります
歯並びにも気を使わなければいけないんですね
ドクター
そうです、マコトくんの歯をしっかりと見守っていきましょう
よろしくお願いします
マコト
お願いします

 

この後に治療を行い、神経の治療は終わりました。虫歯を放っておくと、こんな事になってしまうのです。

もちろん治療が終わっても日々のケアは続けなければなりません。しっかりとケアを行い、虫歯のない歯にしていきましょう

ブログのアーカイブ