親知らず外来

どうして親知らずは
抜いたほうが良いのか

横向きの親知らずが口の中でどうなっているか見たことはありますか?

顎が小さかった為にまっすぐに生えられず横向きに生えてしまった親知らずのレントゲン写真です。
レントゲン上でも手前の歯との間に黒い隙間が見えますが、実際口腔内ではどうなっているの
でしょうか?

 

手鏡で見える範囲の状態です。一部は口腔内に露出していますが、ほぼ歯茎に埋もれています。

 

真上から見てみるとレントゲンと同じように大きな隙間が空いています。清掃が難しく、汚れも1度入ったらとるのが大変そうな見た目をしています。
口の中が痛くなる原因の大半は汚れが原因の虫歯や歯周病です。そう考えると、この状態はあまり良い状態ではないように見えます…

親知らずと虫歯

痛みが無かった為、放置していたところ3年後には手前の歯が大きな虫歯になってしまいました。痛みの原因は親知らずではなく、手前のまっすぐ生えている歯です。その為、親知らずの抜歯だけでなく手前の歯の虫歯の処置も必要となってしまいました。

虫歯は大きく、歯の神経も侵されていた為、手前の歯は神経まで除去しなければいけない状態でした。痛みも無く、困っていない状態では後回しにしたくなりますが、面倒ですがもっと早く親知らずと向き合っていれば少なくとも手前の歯の神経は守れたかもしれません。
そもそもなぜ虫歯になったのか考えると、理由は明白で清掃不良です。1番奥の歯で、ただでさえ磨きづらい上にあの細い隙間に汚れが入ってしまったら、その汚れを取り除くのは至難の業です。

親知らずと虫歯の関係
  • 親知らずは通常17歳~24歳の間に萌出するため、25歳を過ぎると結果として親知らずの手前の歯が虫歯になりやすくなります。
  • アメリカで行われた、口腔内に親知らずが生えた50代~70代(2003人)を対象とした調査では、77%の親知らずが虫歯になっていました。

親知らずと歯周病

清掃不良の為、親知らずの周囲の骨は限局的に歯周病が進行しやすくなります。歯周病は歯の土台となる骨が汚れの中の細菌が原因で吸収してしまい、土台である骨を失った歯はぐらぐらと揺れ始め、最終的には抜けてしまう病気です。

親知らずだけが抜けてしまう分には痛い以外には問題はないのですが、一番大きな問題は手前の歯です。最初は親知らずと手前の歯の間にあった骨は写真のように吸収していき、手前の歯はもう根の先端付近にしか骨はありません。
これは局所的に歯周病が進んでしまった状態でここまで骨が吸収してしまっていると、他の歯よりも早期にぐらぐらと揺れ始め、抜けてしまうことが考えられます(程度問題はありますがそれでもある程度の年月はしっかり噛めることが多いです。ただ寿命が90歳近い現在ではそこまで持つでしょうか…)。

親知らずを抜くタイミングは?

いつ親知らずと向き合って抜いていくのが良いのでしょうか?
各種論文などを調べてみると、ある一定の年齢を超えると術後の後遺症の頻度が増加することなどが書いてあります。
一定の年齢とは30歳です。症状が無くとも若いうちに専門家に一度見てもらうのもよいかと思います。

後述しますが、抜かなくてもよい親知らずもあります。自分の体の中の親知らずがどちらに該当するのかも含めて知っておくべきです。痛くなったら抜こうと考える人が大半ですが、何事も早め早めに手を打っていくことが重要です。
抜くことが推奨されるような状態で温存しておくことは、前述したように虫歯や歯周病から歯を守るという観点から好ましくありません。また、状態の重さも当然ありますが年齢を経るごとに親知らず抜歯の難易度と合併症の確立は高くなると言われています。気になった時が親知らずと向き合う一番いいタイミングだと思います。

歯科医院は「痛くなってから
行く場所」なのか?

親知らずの話からは少し逸れますが、歯が痛くなる原因で多いのはなんなのでしょうか?やはり原因として多いのは虫歯です。
学問である以上虫歯にも分類や進行ステージがありますがそもそも痛みを感じている時はどのような状態なのでしょうか?

上図に親知らずと強く関係する歯周病の進行と合わせて示しておきます。

特徴としてはどちらの病気にしても軽症の段階では、強い痛みを引き起こさない点です。痛みが出てしまった時は、歯にとっては重症のことがほとんどです。ここから考えても、痛くなる前に歯医者に行き専門家に見てもらっておく方が歯にやさしいことが感じ取れるのではないでしょうか?

親知らずを抜く前にCTを
撮影するのはなぜ?

いつものレントゲンと
CTの違いはなに?

これはよく歯医者さんで撮影するレントゲンです。画面右下に横向きの親知らずがあります(矢印部)

 

親知らずにスポットを当てて見てみましょう。根っこの先端が顎の中の神経と近い状態です。神経は白い線に囲まれた黒い帯状の部分です。(青点線部に囲まれる黒い帯状部分が神経です。)神経なので極力ダメージを与えないで抜歯を行いたいところです。このような神経と親知らずとの位置関係が重要となる時はCTの出番です。

 

CTは三次元の顔を三次元のまま診査できるレントゲンです。左図がCTで確認した根の先端部です。赤点線部が歯の根です。黄色点線部が顎の中を通っている神経です。先ほどのレントゲンでは非常に近接しているように見えましたが、三次元の顔をそのまま三次元として見るCTならば、このように神経との位置関係が正確に分かります。このような状態であれば、神経麻痺が出るリスクは低く、親知らずを抜くメリットはリスクを上回るとも判断できます。

親知らず抜歯の合併症・
偶発症・後遺症

親知らずが気になってもいざ抜くところまで気持ちが固まらないと思います。比較的身近によく聞く処置ですが手術に変わりはありません。
術中・術後の痛みや合併症・偶発症・後遺症などはどのようなものなのか、抜く抜かないは別にして、知っておく必要があります。

術中・術後の痛みについて

基本的に麻酔をしますから処置中の痛みはありません。最初の麻酔の注射だけ乗り越えれば、あとは口を開けている事を頑張りましょう。
ただし、麻酔で振動や押される感じは麻痺しない為、そういった感覚は処置中も残ります。術後の痛みですがこちらは痛み止めを処方します。傷が癒えるまで痛み止めを頼りにしましょう。また術後の痛みは個人差がある為、どの程度痛みが生じるかは術前には予想は難しいです。

親知らず抜歯の合併症・
偶発症・後遺症
  • 痛み
  • 腫れ
  • 口が開けづらい
  • ドライソケット
  • 神経障害
  • 骨折
  • 歯の迷入
  • 出血

親知らず抜歯における合併症・偶発症・後遺症は多種多様ですが、大まかには上記項目のようなものがあります。列挙されたもののうち、CTを撮影することによって赤字部分は回避する確率を上昇させることができます。なぜでしょうか?

親知らず抜歯における合併症
~迷入・骨折~
迷入とは、本来そこにない組織が入り込んでしまう事をさします。お口の周囲や口腔内から首にかけては非常に多くの筋肉や組織で構成されています。親知らずの迷入とは、親知らずがその筋肉や組織の間に落ちて行ってしまい、入り込んでしまうことです。どうしてそんなことが起きるのでしょうか?またCTを撮影することによって回避できる可能性がなぜ上がるのでしょうか?

 

図はCTです。分かりづらい為、同じ画像で右図に構造物を記載しています。上は迷入が生じづらい親知らず、下は迷入の可能性が高い親知らずです。比較してみましょう。上の図は親知らずの根が骨の内部に全て収まっています。対して下の図は親知らずの根は生まれつき骨の外に突き出てしまっています。そのまま押すと落ちます。この情報を知らずに手術に挑むのは、親知らずを迷入させる可能性が高まってしまいます。最初から骨の外に根が位置している事を知っていれば、力のかける方向のコントロールによって迷入を回避できる可能性が上がります。(それでも迷入してしまうことはあります。その場合は大学病院などで摘出が必要となります。)またこのように突き抜けてしまっている場合は、麻酔の効きが悪い事があります。手術中の痛みを取り除く為、最初から麻酔の本数を通常より増やすだけでなく麻酔手技の選択も、よりベストな術式で手術に挑むことができます。

 

骨折の回避も原理は同じです。
薄い骨の場所が分かればそこに可能な限り力をかけずに術式を組み立てられるからです。
親知らず抜歯における合併症
~神経障害~

親知らずの抜歯と聞いて神経麻痺の可能性が恐ろしいと思います。

CTで分かる神経の形と
術後麻痺症状との関わり

一口に神経といっても位置や形は千差万別です。この神経の形や位置によっても、術後に神経の麻痺症状が出るかどうかのリスク評価ができます。上図の中でもいくつかは非常に麻痺が生じやすい位置や形態の神経があります。この情報はCTでなければ得ることが出来ず、事前に分かっていれば抜歯をするかしないかの意志決定や、神経と親知らずの位置情報を術式に反映させリスクが高くとも麻痺が出づらいように処置計画を立案することが可能です。

CTは安全なの?


CT撮影を行って放射線を浴びても
大丈夫なのか?

左の図を参考にすると、東京~ニューヨーク間の飛行機での放射線よりも低く安全です。またなんでもかんでも撮影する必要性はありません。顎の中を通っている神経(下歯槽神経)と親知らずが近接していないならば、パントモX線写真というよく歯医者さんで全体撮影するいつものレントゲンで十分です。安全と言われても放射線を浴びる以上のメリットがあるのか気になるかと思います。

上の図を参考にすると、東京~ニューヨーク間の飛行機での放射線よりも低く安全です。またなんでもかんでも撮影する必要性はありません。顎の中を通っている神経(下歯槽神経)と親知らずが近接していないならば、パントモX線写真というよく歯医者さんで全体撮影するいつものレントゲンで十分です。安全と言われても放射線を浴びる以上のメリットがあるのか気になるかと思います。

手術術式のどこに活かされていくか?

親知らずを抜いていくにあたって様々な偶発症や合併症が存在します。医療というのは確率のアートと言われる側面もあり絶対はありません。目の前の状態に対して最も安全で効果が期待できる可能性が高い手法を選択しながら治療を進めていきます。親知らずの周辺には血管や神経が存在します。そこにアプローチしていくにあたってCTでしか確認できない所見が多々あります。骨の厚みや手術していく親知らずの根の形態、神経と親知らずの位置関係や神経の形などです。これらの情報を加味し、最も上手くいく手法を選択する為にCTが必要なことが多いのです。

CTは保険適応になるの?

CTは基本的に保険適応外(当院ではCT費用は11,000円)ですが、親知らずの状態によっては保険適応となることもあります。
詳しくは担当医にご相談ください。